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遠い夏の日 第二話

彼は再びスクーターのエンジンを始動させ、スロットルを全開にした。

街中を抜けながら郊外のバイパスを避け、曲がりくねった細い道だけを走った。

トウモロコシ畑のグリーンのブラインドが風に揺れている。

まっすぐに伸びた少し登り勾配の道をひた走ると坂の上に出た。

彼はエンジンを切りバイクのスタンドを出し、フルフェースのヘルメットを脱いだ。

PM1:37

虫の鳴き声が、コロコロと聞こえてくる。

額から汗が流れ、首筋をつたった。

真夏の炎天下が逃げ水を作り出し、アスファルトの温度はゆうに50度を超えている。

ユラユラ揺れる景色を遠目に見ると、蒼い海が広がっていた。 

090607_0913~0001

彼は細くスロープに近い私道にバイクを横付けした。

周囲に誰も居ない事を確認すると、彼はTシャツとジーンズそしてボクサーパンツの下着も脱ぎ、素っ裸の状態になった。

暑さよりも開放感が先にたち、しばらくそのままの格好で空を仰いだ。

「ふーっ、あちーや」

デイパックから白いサーフトランクスを取り出し穿いた。

サーフトランクスの生地から伝わるヒンヤリとした冷たさが心地よく感じた。

彼はボードケースから板とワックスを取り出し塗りだした。

暑さの中ワックスアップすると、逆にワックスを剥がす格好になってしまう。

硬い固形とボードに張り付いた柔らかく薄いワックスは硬い固形が勝ってしまうのだ。

彼はトロピカルウォーター用のワックスを少しだけ塗り終えると尻のポケットに入れた。

県南に位置する椰子の木の群生地に、ココナッツフレーバーの香りが立ちのぼっている。

サーフボードを抱えビーチサイドへ彼は歩いて行った。

足に少しでも砂が触れるようなら火傷してしまうくらいだ。

砂浜は色々な貝殻が流れ着いていて、少し白みがかった砂だ。

西、南西、南、東、そして北東と、さまざまなウネリが此処のポイントへ集まる。

まったく波が無い日が無いくらいなのだ。

彼は少し海水で濡れた場所を探し、板を置き両腕を真っ直ぐに頭上へと伸ばし、体を後ろへ反る格好をした。

その次に彼は、両足を肩幅よりも広い位置へ開き、両手を膝に置いて体をねじった。

外腹斜筋、広背筋が伸縮し、背骨がグキっと鳴った。

最後に正座の格好から、腿の部分を伸ばし、立ち上がり板を抱え波うち際まで行った。

岸辺からどん深なので最初から丁寧にパドルを始めた。

水温はお湯に近いくらいで温い。

風は陸から吹くオフショア状態。

パドル姿勢から海底を見ると、底が見えるくらい綺麗だ。

セットの波が来る前に彼は、平水面でドルフィンスルーをした。

長い髪が後ろへ流れ、オールバックスタイルになった。

体が海水を浴びると、気持ち良く彼は息を軽く吐いた。

「ふーっ」

板にまたがり波待ちしていると、海水の雫なのか汗なのか、わからないくらいポタポタと頭から水が滴り落ちてきた。

セットの間隔が長く、厚く割れずらいのでインサイドまで戻り、割れそうなピークを狙った。

沖に目をこらして見ると、セットがラインナップしてくる筋が入ってきた。

厚い波からパドルせず、彼は胸まで板にへばりつき、重心を板の前側に置きニ回しかパドルせずに、割れる寸前の波でレイトテイクオフした。

軽く落ちるような感覚と、板のレール部分がフェースに食い込んで、シッカリとした安定感を覚えた。

膝が胸に近いくらいの格好から、少し上体を上げレールトゥレールで加速し始めた。

風が合っているのか地形が良いのか、長いショルダーが続いている。

アップスンからボトムへ軽く降りるとターンし、崩れてくるリップに板を当て込んだ。

低い姿勢からテールを蹴りこんで、前足も上体もボトムへ向かせ、スープと共にローラーコースターで最後のセクションは終わった。

彼は確かめるように同じ工程を繰り返した。

時折、波は同じ表情を見せないように彼を試した。

走っていく波のショルダーが目の前で崩れ、ショートライドを余儀なくされる形になったが、彼は難なくスープの前でバンピングとアップスンしながら加速した。

そして再び掘れたフェースが出来始めると、彼は一気にフェースへと戻り板のレールを食わせた。

しかしフェースへ戻るや否や、クルっと向きを変えプルアウトし、「ふっ」とせせら笑うように再びセットポジションまで戻り始めた。

波のセットは同じ間隔で入ってきている。

彼は何本かをやり過ごし、右手を自分の左肩に当てる格好で、しばらく体温を感じていた。

空を見上げ目を閉じながら、何を考えているのか海中へと倒れこんだ。

全身の力を抜き、少しうつ伏せ状態で海面に浮く格好から、上体部を潜らせ両手を使い水を大きくかき潜水した。

海中で平泳ぎをし、海底まで到達すると彼は目を見開いた。

白い砂の凹凸がハッキリ確認でき、距離感はハッキリしないが珊瑚や岩が点在していた。

よく見ると磯焼けが始まっていることがわかった。

此処の海は、珊瑚の北限と呼ばれていて、ダイビング客も多く訪れる。

環境破壊の影が刻一刻と傾き、周囲を黒く塗り始めているのだと彼は思った。


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テーマ : 自作連載小説
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