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遠い夏の日 第九十九話

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ホテル日航那覇グランドキャッスルまではすぐの距離だった。

最上階の20階までエレベーターで上り、バー「サンセットラウンジ」の入り口で二人は待った。

黒服のウェイターが、にこやかに迎えてくれた。

「お二人様ですか? カウンター席になりますが宜しいですか?」

「一番奥の席にしてください」

冬島が気をきかせ、千賀子をエスコートした。

バーの室内からは夜景が一望できる作りになっていた。

サンセットと名付けているのだから、恐らく西に面しているのだろう。


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二人は一番奥のカウンター席に着いた。

ウェイターが早速注文を聞きにきた。

「なに・・飲みますか?」

「そうですねスッキリして感じがいいです」

「え~と、彼女にはトムコリンズ、僕は・・ポルトありますか?」

「ポルトでございますか? 少々おまちください」

ウェイターはカウンターのバーテンダーに歩み寄り、トムコリンズとポルト酒の伝票を渡した。

バーテンダーは、目を細めるように伝票を眺め、ウェイターに言った。

「厨房に電話して、ポルトあるか聞いておけ。 あれば持ってこさせろ」

バーテンダーはカウンターから出て、冬島と千賀子の席に行った。

「お客様。失礼します。ポルト酒の御注文ですが、無い場合もございますので、その時は何か代わりにお作りいたしますが・・・」

「そうですか・・・なければキールロワイヤルで」

「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」

バーテンダーはカウンターへ下がった。

「あの・・冬島さん。ポルトってなんですか?」

「ポルト酒はポルトガルで作られるワインです。熟成が進み度数が少しだけ高いんですよ。アペリティフ食前酒か食後酒のデザートワイン感覚で飲めます。フランスでは料理のソースなんかにも使われますね」

「お詳しいんですね。食に関して」

「いや~カメラマンですから、自宅スタジオや出先で、食関係の写真もレギュラーで撮ってますので・・・それぐらいの知識がないと仕事が入らないですよ」

「あらっ そうでしたわ・・失礼しました」

千賀子は冬島に、いたずらっぽく微笑みかけた。

バーテンダーはシェイカーに、オールドトムジンをワンショット、レモンジュースをスプーンで一杯と少し、、そして砂糖をスプーンで二杯と氷を入れシェイクし始めた。

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シャキシャキと音をたて、カウンター内部にシェイクする音が響いた。

グラス用の冷蔵庫から、14オンスのタンブラーをグラスの最下部を人差し指と親指で、気を付けながらつまんで取り出した。

背の高いグラスに四つほど氷を入れ、シャイカーから中身を注ぎ、炭酸水を2フィンガー注ぎ軽くステアし、レモンスライスをそえた。

バーテンダーは出来上がると、ウェイターに目配せした。

「グラスの下を持てよ。 オマエの指紋なんか付けられたら、トムコリンズが台無しだからな」

「はい。 わかってます」

ウェイターはバーテンダーをニヤリと睨んだ。

すぐさまカウンターまで酒は運ばれた。


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「お待たせいたしました。ごゆっくりどうぞ」

「あら、まー素敵なカクテル・・」

千賀子は少し驚いた表情でグラスをみつめた。

「先にどうぞ」

「はい。では・・・」

千賀子は少しだけ口をつけ、チビリと飲み込んだ。

「スッキリしてますね。夏には良い感じです」

「そうですか・・・それはそれは・・ジンベースは飲みやすいし清涼感があります。色も無色透明で爽やかです」

冬島はカクテルについて軽く説明した。

「覚えておきます。トムコリンズですね」

カウンターでは、やっと厨房からポルトが運ばれてきた。

「これですね」

厨房レストラン部のランナーという、ホテル内を走り回る担当が言った。

「あぁこれだ」

「チーフが返さなくていいって言ってました」

「そっか、ありがとさん。オマエ今日のランナーか?」

「はい。そうです。他はレストラン部の客室ルームサービスが5名です。それにしてもポルトなんて珍しいですね・・」

「良い客じゃないか。どこまでもお客さんはお客さんだ。特にホテルのサービスを受ける客は特別だ。こちらも客にはなるべく断ることはしない。ホテルにノーサンキューは禁物だ。オマエ勉強しとけ」

「はい。わかりました。では・・・」

バーテンダーは、ポルト酒を赤ワイン用の、少し大きめなグラスに三分ほど注いで、ウェイターに運ばせた。

「お客様。こちらで宜しいでしょうか?」

赤みの強く、甘い匂いが冬島の鼻をついた。

「はい。ありがとう」

冬島は少しだけ口をつけた。

「甘いな~・・・やっぱりデザートワインですねコレ」

「そんなに甘いんですか?」

千賀子が質問した。

「そうですね・・ちょっと甘いです。アペリティフでワンショットだけなら飲めるかも・・・飲みなおす一杯には合わないです」

「なるほどね~・・いろいろと、用途が酒にはあるワケだ」

「さて、そろそろ本題に入りましょう」

女は強し

ユタの弾圧

民衆の必要性

ユタの増加

敗戦後

冬島はコースターに裏書した。

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「まず、いくつかの資料を読んだんです。一般的でユタになる人間は、まず生死に関わる事故、肉親の不幸、夢などをきっかけにカンダーリィ(神倒れ・神垂れ)と言われる原因不明の体調不良になります」

「はい。それで?」

「その中には、ユタになれという神からの命令と考えられており、この神命を拒む限り体調不良は治らず、死ぬ者もいると信じられています」

「・・・・・・・・」

「ユタになることを受け入れた者は、地域の御嶽を巡って神と交信したり、信心を持つことによって次第に巫病から解放され、ユタになるとされています」

「・・・・・・・・」

「彼女らの多くは、別にユタになりたくてなったのではないと言う者が多い事、そして沖縄では、原因不明の病気、運勢占い、冠婚葬祭の相談など、ユタは相談料をもらって問題解決にあたりますが、霊感商法的な能力のないユタも存在してるとワタシは思うのです」

「・・・・・・・・」

「さきほど、生死に関わる事故、肉親の不幸とワタシは言いましたね。それが戦争であり、敗戦後の動乱でユタ・・・んー能力のない偽者のユタを作ってしまったのだと思います。物資も豊かでなく女性だけで生きていく方法としてです」

「・・・・・・・・」

冬島は千賀子の仮説を聞き終えると、グラスのポルトを全部飲み干した。

そして深くため息を吐き、目を瞑った。

千賀子は少し多めにグラスの酒を飲んだ。

レモンの香りが喉から鼻に抜け甘みが舌の先に残った。

冬島は目をユックリ開き、千賀子に顔を向けた。

冬島の目尻の下がった特徴ある目が、更に下がり少し酔ったように見えた。

「千賀子さん。素晴らしい推測だと思います。それを証明できるならば、霊感商法やマルチ商法は少なくなる・・・いや、どうなのか・・・んー・・」

「沖縄では精神的に不安定な患者に対し、医者がユタを勧める例もあります。霊的な効果はないにしても信じる事で精神的な癒しを得られるからです」

「それが医者半分、ユタ半分てことですか」

「そのようですね・・・でも・・・不確かな真実を立証するのが難しいんです。御伽噺ならば何を書いても良いでしょうが、雑誌の記事として取り扱われるか企画書次第でもあります」

「それと久高島を絡めるワケですね」

「はい。それと高校野球の取材を兼ねてますが、ワタシの場合は応援する側の人々を取材するだけですので、ラッキーにもユタの情報があればダブルで取材できます」

「なるほど・・・タイムリーを待つってことか・・・」

「でもリスキーでもあります。本当に神がかり的ならば、なんら私達に影響があるでしょう? 久高島へ行ったきり帰ってこないって冬島さんが言ってましたからね」

千賀子は含み笑いをし、冬島を見つめた。

「冗談ですよ・・あれは。でも・・・各報道バラエティなんかで表に出ない真実ってのは結構ありますよ。統制された日本の報道はナニカ別の力で抑え付けられていますから」

「取材の自由性も無ければ、報道する媒体もない。何か特別な反社会制を書けば槍玉にあげられ、国家という見えない圧力から抹殺もしくは、レッテルを貼られて秩序を乱すなと警告される」

「そういうことです」

「ハードな文面でなくても、ソフトな神話で扱ってもらえればと思っています。ただ念入りに取材したいだけです」

「わかりました・・・今後とも宜しくお願いします」

「いえ、こちらこそ・・・」

「はぁ~・・なんだか空気が重かったな~」

冬島は左の首の付け根をトントンと叩いた。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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