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わだつみ 第一話



海原へ。

海は何処かの世界で、繋がっているのだろうか。

人の記憶も、何処かの世界と繋がるとすれば・・・


20070706111839.jpg


1/F kwun shuen manssion 115 shanhai street,yau ma tei,kawloon,hong kong

其処を訪れる客を店主は選ばない。

アジアを放浪する者。

ヨーロッパへ旅立つ者。

隣の中国へ留学する者。

香港でチャンスを待つ者。

そして、日本へ帰れない者。

うす汚い雑居ビルの階段を登り、キシム扉を開けると、ドミトリー形式の二段ベッドが見えてくる。

奥の部屋にしかない窓から、今まで歩いてきたベットリした湿度を、拒絶するかのように、乾いた陽光が差し込んでる。

昼間から寝ている者、漫画に没頭してる者、国々の情報交換をする者。

「これから何処を周るんですか?」

「んーとりあえず、広州から中国ですね」

「これから飛行機でヨーロッパまで行きます」

「あー僕は北京で働いてるんでビザ申請です」

「これから日本へ帰ります。半年間いろいろ回りました」

皆、意気揚々と語り、旅の通過点にしてる者達が、いつかは部屋から吐き出されていく。

空港アライバルゲートからバス乗り場までの下りのコンコースを歩いてくると、南国特有の湿った蒸し暑さの洗礼を受ける。

そして、暑さに覚醒される。

クラっと、後ずさりする感じだ。

「あー又、きちゃったんだ」

瞬 20代後半の彼を、香港が掴んで離さない。

日本で普通どうり普通らしく暮らしてきた彼を、一枚の写真がキッカケに彼を此処まで運んでしまうのだ。

父親は大手商社マンだが、野心家で起業のチャンスを窺っては妻に嗜められてる。

その妻で母親は堅実な主婦だが、どこかコスモポリタン感覚な持ち主で美人。

母親の唯一のルーツは、遠い親戚に外国人がいたこと。

それが何処の人なのか、未だにわからないと母親は言う。

瞬は大学を卒業し、普通の大手メーカーに就職し都内を歩いてきた。

まだ大役を任せてもらえない苛立ちと、幾分か会社という牢屋に飽きていた。

重い雲に覆われる6月の蒸し暑い夏が始まったばかりの日に、とある画廊を彼は訪ねた。

小さく「追憶」と記されたタイトルで、名も知らない写真家の写真が数枚壁に飾られてた。

水平線を境に、空と海と雲だけが写ってる写真があった。

青を基調としたコントラストが、悲しくも自由さを訴えかけてるようで、瞬に興味を持たせた。

50代前半だろうか、センスの良いワンピースとハイヒールを履いた婦人オーナーに彼は写真の事を聞いた。


tao.jpg


「これは何処なんでしょうか?写真家は何処の国の人でしょうか?」

「わかりませんわ。わからないのです。私の友人の紹介で世界を周りながら写真を撮ってる写真家と聞いてます」

それから彼は何度か画廊に通っては、婦人オーナーに絵や写真の事などを教えられる日々の交流が始まった。

画廊婦人の名前は「恵子」さん。

都内の美大卒業後、パリへ留学し絵を描いていたという。

そんな彼女も自分の限界を感じ、いつの頃からか画商の道に。

「ねえ瞬君。君は今の生活に満足してる?」

「いやー。なんだか考えた事ありませんよ」

「若いうちはね、旅をしなさい。旅を。そして何かを見つけなさい」

「なんだか恵子さんは母親みたいなこと言うな」

「私は独身よ。永遠に。君みたいな子供に母親だなんて言われたら私この先どうやって生きていけばいいのよ」

そんな交流が続いた。

瞬は写真が何処なのか?

誰が撮ったのか?を知りたくて会社を辞めてしまい、アルバイト暮らしと渡航を繰り返しいた。

自分探しのようなロケーション探しの旅が、いつしか香港を拠点へと変えていった。

いつも希望と失う何かを表裏させながら彼はゲートを下る。

空港エアポートバス

A22(39HK$) E23(佐敦上海街下車18HK$) A21(佐敦地鐵站、幸福酒店33HK$) 深夜便N21(佐敦地鐵站、幸福酒店)

バスを降り宿までは直ぐだ。


20070706111726.jpg


香港上海街。

背の高い高層ビル群と綺麗な香港とは一線を画す街。

エアコン室外機から落ちる滴を雨と勘違いしながら通りを歩く。

鼻の奥に残る中国特有の匂い。

それを感じながら、宿の階段を登るのだ。

Blow by BlowBlow by Blow
(2001/07/31)
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わだつみ 第二話

<Linda!Linda! Linda!>

皆が寝静まった宿のある日、一人の青年と話をした。

「もう3年は帰ってませんね日本には...」

「おもちゃメーカーに勤めているんです。 家も会社にスペースを間借りしてます。なんとなく寂しくて週末は此処に泊まりにくるんです。」

彼は多弁だった。

瞬は何となく彼の事を薄々感じていた。

彼の口からは発せられずとも「ゲイ」なんだって事が。

青年の語り口は、饒舌とまではいかないが、口元に微笑みさえ浮かべながらの談笑だった。

部屋に設置してある冷蔵庫から彼は北京のビールを取り出して瞬に勧めた。

呑みながら少しだけ彼の目尻が下がり、言葉が優しくなった。

「あの」から「あのね」へ。

「そして」から「それでね」へ。

疲れさせたのだろうか。。気を使わせたのだろうか。

小さめの肌に張り付くようなTシャツと、ジーンズを穿いた彼を瞬は見ていた。

少し前髪だけ長く、ちょっとアンバランスな今風なへースタイルの青年を。

彼は黙り込んで、目を瞑って天井の一点を見詰めた。

腕を胸の前に組んだかと思うと、椅子に片手を置き、足を組んだ。

身体が斜めになり、しなやかな姿勢が保たれていた。

それはまるで、枝垂れ柳のような姿だった。。

しなやかだけど、弾力があり、風が吹いても逆らわず、まるで飄々と人生を歩む淑女のように。

宿は静まりかえるように、今夜は殆ど誰も泊まっていない。

学生の連休、夏休みなどとは違い今夜は疎らに等しいくらい平穏な夜だ。

香港は秩序が保たれている都市で、深夜は時間がくれば皆休む。

その時、突然、彼は眉間に皺を寄せ難しい表情を作った。

喉元、喉仏が小刻みに震える様が目に見えるようにわかった。

20070920162204.jpg



「あのね...僕ね...新宿2丁目って知ってる?」

「知ってるよ」

「其処で働いてたんだよ...僕ゲイなんだ...」

「うん...」

瞬は彼の真っ直ぐな目を見た。

新宿2丁目、ゲイの街。

東京地下鉄、新宿御苑の改札を抜けて、しばらく歩くと今までの世界とはかけ離れた世界が此処に在る。

誰が決めたのだろう。

人類創世記に男女の区別を神が創られたように。

男に生まれながら心が乙女心の彼等。

歳を重ねていくと、人生の扉がいくつか待っている。

恋愛、就職、結婚、出産、彼等は、どれもあてはまらない。

その趣向を皆からナジラレ、馬鹿にされ、嫌悪され、扱われる。

ゲイが男を愛してはイケナイのだろうか。

ゲイに就職口は無いのだろうか。

ゲイに何故?結婚を認めないのだろうか。

神様はゲイに子供を授けないのは何故だろうか。

そのことで悩み、性転換手術を試みる者も中にいない訳じゃない。

定期的なホルモン注射をされ、副作用に苦しみ抜く。

普段の生活で自分を出せないまま、ストレスに襲われる者もいる。

自ら命を絶ってしまうものも。

新宿2丁目には、ポパイ、Gスタジオ、さそり、池坊などなど数多くの店が点在し、お客を楽しませてる。

女同士連れ立って、パブ風な暖簾を潜り、店員と馬鹿話する者。

一人ふらりとカウンターだけの小さい店で「ママ」と談笑する紳士。

キャバレークラブの麗人達のショーに見入るサラリーマン達。

ゲイが男を愛するのなら、その逆の男達の心理はどうなんだろう。

ここら界隈に通う者がこう言った。

[女ってさ、見た目は綺麗にしてても、中身が伴ってなくてガッカリさせられる事って在るんだよ。此処の人達はね、見た目が女じゃなくても心は本当の女性だよ...だから癒されるんだ。皆サラリーマン稼業でしょ。疲れて電車乗って家に帰ると、女房の小言と勝手な娘の言い訳なんかが待ってる。だから皆、癒されたいんだよ。小さいスナックなんかで「おかえり」って優しい言葉と目元が笑ってる顔が見たいもんなんだよ]

皆、求める事を惜しまず生きてる。

居場所を探してる。

青年は少し滑らかな口調から、淡々としてるが声のトーンが下がっていった。

「高校を出て直ぐに就職したのよね。大手デパートにね。僕が女性になりたい、気持ちが何となく女だなって、気が付いたのは中学生の頃。女性ファッション雑誌などを読み始めて、良く親に気持ち悪い事しないでって怒られたわよ。同じ高校に通う子を好きになっちゃったの...もちろん男の子よ。でも...言えなかったわ...だって嫌われるかもしれないって思うじゃない・・・」

暗い部屋に重い空気が淀みはじめていた。

「就職先で女子社員に結構、僕って人気あったのよ。だけど..女の子に好かれたって...仕方ないわ。その頃よ。あの人、同じ社員の女の子が僕にこう言ったのよ。」

[君ってさ。綺麗な顔してるよね。実はゲイでしょ?]

「僕は動けなくなっちゃった。その言葉に...しばらくしてね。その子が僕を連れて行ってくれたの。新宿2丁目に。その子が言ったわ。君はね、無理してる。いつか駄目になるって。4年も勤めた職場を辞めて2丁目のバーに転職。気が楽になったわ。」

彼の目が輝きはじめた。淀んだ空気が少しずつ通気孔へと流れ、新しい綺麗な空気が部屋に入ってきた。

「そうだったんだね・・・君は苦労したんだね」

瞬は彼を気使う言葉をかけた。

hongkong25.jpg

「ねえ知ってる?香港にゲイ達が集まる場所があるの。ソーホーとかランカイフォンと呼ばれるエリア」

「そうなの?知らなかったよ」

「今度、良かったら一緒に行かない?僕が案内してあげる。ここ香港で生活してて言葉の壁や習慣なんかで苦労してるけど昔よりはいいわ。心を通わす、相手に伝えるって言葉だけじゃないのよ。わかる?」

「うん。わかる気がするよ」

「もう、寝ましょ。明日は僕も仕事なんだ」

早朝のベッドに彼の姿は無かった。

床をモップかけする店主の姿があり、天井のファンがキシキシと鳴っていた。

深夜、彼の言っていたセントラル地区の高層ビル群を瞬は歩いてみた。

行き交う人々を眺めながら瞬は独り言を呟いた。

「皆、綺麗なんだよね・・・心の中だけは・・・」


数年後、自らバイセクシャルだと告白した俳優のレスリー・チャンが 「マンダリン・オリエンタル香港」から飛び降り自殺を遂げた。

800px-HK_LeslieCheung_60401.jpg


http://


※Lindaリンダ{ポルトガル語で綺麗という意味}

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?わだつみ

記憶のない男と、夢の記憶を追う者?


深夜12時過ぎ、hongkongラッキーハウスに新たな旅人がドアを開けた。

長身で肩まで伸びた髪、頬はこけ眼は切れ長で鋭く浅黒い。

名前はK。

年齢は40代半ばだろうか。

23時、香港空港にBangkokからエミレーツエアラインEK 386{UAE}で彼は飛んできた。

宿には数人の若者がたむろし旅の話で盛り上がっている。

「あ・・そこの名簿に名前と滞在予定を書いてください」

一人に若者がKに親切におしえた。

「あーわかってるよ」

彼は空いてるベットを見つけ、大きいザックを降ろすと、パンツ一丁になりシャワールームへと消えていった。

「今の人、なんだか怖そうな感じだね」

「なんだか・・・旅慣れてるかんじだけど」

「ヤクの売人とか・・・ヤクザだったりして?」

「そんな事ないでしょ」

「どーかな・・・話しかけてみようか?」

「誰が・・?」

「・・・・・・・・」

隣の部屋のドアが、いきなり開いた。

眼を擦りながら店主が部屋に入り辺りを見回すと、

「あんた達、もう寝なさい。何時だと思ってる! 12時過ぎたら声は小さくしてもらわないと駄目だ」

一同は目配せしながら、 「スイマセン。」 と、店主に謝った。

「あ、おじさん。新しい人の名簿書いてありますんで」

「んー何、どれどれ。あーKさんか。そうかそうか。君達もう寝なさい。Kさんに叱られるぞ」

「・・・・・・・」

「それからな。色々と人の噂や詮索などするんじゃない。皆事情があるんだから」

皆、それぞれのベッドに戻る者、外に夜食を買いに行く者に分かれていった。

瞬はベッドに戻り直ぐに眠りに落ちていった。

CIMG4440.jpg

瞬の目の前に、微笑を浮かべる女性がいる。

手を重ね合わせ、向かい合わせに座り微笑んでいる。

清楚なテーブルクロスの上に置かれたワイングラスからは、ほんのりとシャンパンの香りが鼻を伝って
瞬の頭の隙を刺激している。

彼女のか細い指がグラスの柄を啄ばむように絡まり、薄いルージュがひかれた口元へ運ばれる。

一口、細かい泡と共に、彼女の喉もとを滑るように流し込まれた。

グラスの縁が店内の明るい照明と光る滴でプリズムを発している。

ゆっくりとグラスを置くと指は、テーブルの上にそっとのせてある瞬の手を優しく包んだ。

「ねぇ・・美味しいわね。ワイン」

「うん。そうだね」

「ねぇ・・私の事、見てる?」

「えっ何?今、目の前にいる君をみてるよ」

「ちがうの・・ずっと見てくれてたか・・これからも見てくれるのかを聞いたの」

「あーたぶん・・見てるよ・・・」

「だめ! ずっと見てくれなくちゃ」

「うん。見てるよ」

瞬は右手でグラスを掴むと、多めにワインを口に含んだ。

ゴクリっと、音がするほどイキオイよく喉が鳴り、腹の底に炭酸特有の刺激が流し込まれた。

「ねぇ・・・もういきましょう・・・ふふっ」

彼女の指が、瞬の手を強く掴んだ。

暖かい感じがして、懐かしい感じがした。

「どこに行くの?」

「いいのよ・・・行くのよ・・・何処かに・・・」

表の広い通りから、ケタタマシイビル工事の耳を劈く音が耳に響いている。

どんよりとした曇天が、今にでも泣き出しそうなくらい引く立ち込めていた。

背中を、汗がつたっていた。

彼女の額にも、薄っすらと汗が滲んでいた。

瞬の腕に絡まれた彼女の体温と外気が、瞬の酔いをいっそうと強めた。

首を上にもたげ、肩で息をした。

工事現場の音が、徐々に激しくなり、目眩を覚えた。

意識が遠のいていく。

遠のいていく記憶の中で、彼女の首筋から甘い香りがし、瞬を幻惑させていった。

そして・・・すべて真っ白になり消えた。

「はーっはーっ」

瞬はベットから、飛び起きた。

胸が痛む。

喉がカラカラだった。

汗びっしょりになり、着ていたTシャツを脱いだ。

[夢なんだ・・まだ記憶が鮮明に残っている・・・誰なんだろう?]

眠気と夢の記憶に、頭がボーっとしていた。

喉を潤そうと、部屋の冷蔵庫にビールを取りにいった。

冷蔵庫横のソファーに、Kが天井の一点を見つめ横たわっている。

「おい・・・オマエ魘されたたぞ」

「夢見たのか? 悪い夢でも」

「いや・・・なんだか・・・まだ整理がつきません」

[なんだったんだろう]

「Kさん・・・眠れないんですか?」

「あー考え事してた。思い出せない記憶をな・・・思い出そうとしてるんだ」

「記憶?」

「そうだ。記憶だ。俺な・・・記憶が・・・消えてしまうんだ」

「子供時代や学生時代や誰と呑んだとか、どの女と寝たとか愛したとか」

「次から次と・・・消えてしまうんだ」

「だから一箇所に居て、普通の生活が出来ないんだ」

「そうなんですか」

「オマエと話した事なんかも・・・いつか・・・消えてしまうよ」

「残念だけどな」

「オマエ・・・魘されて・・・誰かの名前を呼んでたぞ」

「えっ!?誰の名前? そんな記憶は僕に無いです」

「夢ってな・・・見るだけじゃ無いんだぞ。脳に刺激された事が映像や言葉として出るんだ」

「オマエは憶えてないが言葉を発していた」

「なんて名前ですか?」

「・・・・・・し・・・おね・・シオネ・・・?だったかな?」

「そんな知り合い・・・いないのに」

「シンクロニシティってわかるか?」

「心理学者ユングがな、同時発生的な虫の知らせのように、意味のある偶然の一致を解いて発表したんだ」

「それが、どうかしたんですか?」

「それがオマエと、オマエの言葉の先に出た{シオネ}って人との間に、シンクロニシティしてるかもしれないって事だよ」

瞬は混乱してきた。

「なんだか、よくわかりません」

「わからんでもいいさ」

「物事はな。後になって理解するってことのほうが多い」

「俺は記憶が消えてしまうから・・・目の前の事だけで生きてるけどな」

「よー行くか?」

「何処に?」

「早朝飲茶さ」

「早朝のヤムチャですか・・・はい!喜んで!」

「シーっ声がデカイぞ」

朝4時をまわったばかりの上海街の一角の公園に、老人達が暇を持て余してるのうだろうか、訳も無く只、集まっていた。

アスファルトから立ち上る生暖かい空気が、これから始まる一日の序章のように思えた。



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?わだつみ

記憶のない男と夢の記憶を追う者

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「meisy! Do not you give another helping of the tea?」
「oh Is it good with jasmine tea?」
「ok!」

「知りあいですか?」

瞬がKに質問した。

「メイシーおばちゃんだよ」

「此処の飲茶は安くて美味いんだぞ。香港の富裕層の奴らは、香港サイドからこっちには来ない。ましてや汚い上海街なんかの食べ物屋なんかはもってのほかってことさ」

「そうなんですか?」

「あーー・・そうだ」

「んーーー!この鳥の足、最高に美味いですね!」

「な!いいだろ」

広い店内には老人しかいなかった。

皆それぞれが自分のお気に入りの新聞を手にし食い入るように読んでいる。


20070724073847.jpg



香港の新聞は強烈な風刺と、ドギツイ写真が掲載されてる事で有名だ。

日本人の目には「え!」と思わせる死体などが載っている。

中国政府への風刺も、あまり度が過ぎると廃刊に追い込まれる。

香港は特別自治区という呼ばれ方はしてるが、中国に返還されてからは中国領土なのだ。

「さっきの話だけどな。誰にも言うなよ。記憶の話」

「はい。わかりました」

Kは茶碗の水面に目を落とし見つめていた。

瞬はどことなく悲しげなKが、どんな人生を歩んできたのか興味がわいていた。

「Kさん。今日は何をして過しますか?」

「ん。予定なんてないさ。セントラルあたりをブラっとするか? 俺はタイから片道チケットで飛んで来たから、何時まで、何処かへってのはないんだよ・・・暇を持て余してはいけないから何かしないとな」

長期旅行者にとって最大の敵は暇と孤独だ。

それに耐えられない者は、沈没といって宿や一箇所にダラダラと過す羽目になる。

「僕はユナイテッドの安チケットなんで、復路を棄てて何処かへ行きます。いつもは数週間だけ滞在して帰るんですけどね」

「帰るか・・・帰る場所や帰りを待ってる人がいるって良いな」

「Kさん・・・」

「さて、少し寝てから出掛けようぜ」

「メイシー!  マイタンっ!」

[自伝的記憶]

自分自身に関する事柄についての記憶である。
自分が幼いころのことを覚えているのは、自伝的記憶が働いているためである。

20070724073923.jpg



ラッキーハウスのベッドで瞬は渋谷に巣くっているホームレスを思い出していた。

腕の立つ調理人でありながら、脳の一部が何かの原因で欠落し、大事な記憶が抜けてしまい調理の仕事が出来なくなってしまった男だ。

彼は夜毎集まる渋谷の若者達には知られた存在で、人生相談をしてあげる優しい男だった。

付き合ってる彼氏の悩み、仕事、リストラ、家出、そして自ら・・・今死のうとしてる者など・・・

誰かがモアイ像前にジャンベを持ち込んでは夜毎集まるのを恒例としてた。

ホームレスも、ジャンベ集会に毎夜参加していた。

「おじさん。今日の気分は?」

ある少女が駆け寄る。

「おじさーん。元気だった?ミカね。相談があるの」

派手な格好の少女がホームレスの隣に座る。

「あの・・・実は仕事の事なんですけど」

皺だらけのスーツ姿の疲れたサラリーマンが話しかける。

「僕はね。昔、板前だったんだ。身体を悪くしてから記憶が無くなってしまった。仕事も出来なければ家族もいない。それからは家の無い生活。だけども、こんなオジサンだって、ちゃんと生きてるだろ。頑張りなさい少しだけでいいから・・・・また話したい事あったり、疲れちゃったら此処においで。いつでも話しを聞いてあげるから」

オジサンと呼ばれている男は優しく多弁だ。

「ハイ! オジサン。ありがとう」

皆、目を輝かせ帰っていく。

彼も又、ブルーシートのネグラへと帰っていく。

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地下鉄MTRに乗り込むと冷え過ぎた車内が二人を待っていた。

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?わだつみ

[記憶のない男と夢の記憶を追う者]


P,octopus
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オクトパスカードを使い香港中を周れる事が出来て、初めて香港市民の仲間入りと言える。

佐敦(Jordan)から尖沙咀(Tsim Sha Tsui)までの一区間を、わざわざMTR(Mass Transit Railway, 地下鐵路)に乗るのも贅沢かもしれない。

※オクトパス(八達通)
オクトパスカード読取部香港では、公共交通機関の中では世界で最も早く日本のソニーの開発した非接触型ICカード規格、FeliCa方式を採用したオクトパスカード(八達通:Octopus Card)と呼ばれる交通プリペイドカードを1997年に導入した。

現在このプリペイドカードで香港の地下鉄、鉄道、バス、トラム、ライトレール、フェリー、ケーブルカーなど、タクシーを除く殆どの交通機関において使用が可能である。

また市中のコンビニエンスストア、ファーストフード店、コーヒーショップ、レストラン、自動販売機、証明写真撮影機、公衆電話などの様々な施設で電子マネーとして使用出来る。

日本のSuicaやICOCA、シンガポールのEZ-linkなどと同じ規格だが互換性は無い。

[それにしても、なんて寒い車内だろう・・・]

と、瞬は思った。

車内は他人の迷惑も考えず大声で話す中国人達。

携帯電話から漏れてくる通話の声。

会話が喧嘩してるように聞こえる。

それだけで滅入る。

瞬は寒さと雑音の中で今朝の夢を考えていた。

[誰なんだろう。何処に行こうとしてたのか?!]

「し お ね」と、口に出してみた。

不思議な夢だけど暖かい感じ。

自分の手の体温を確かめるように自分の頬に掌を当ててみた。

あきらかに自分の体温とは違う体温だ。

再び夢と同じような錯覚が蘇ってくる。

「おい。降りるぞ!」

Kに肩を叩かれ瞬は現実に戻されてしまった。

地下鉄改札を抜け、重慶大厦{チョンキンマンション}出口から地上へ上がると、ムアっとしたアスファル
トの照り返しと、湿った気温に包まれる。

20070727093352.jpg

重慶大厦の入り口近くでシーク教徒のターバン姿と、派手なシャツを着たインド人が「ニセモノ トケイ イラナイ?」と、しつこくまとわりついてきた。

「うるせーな!」

Kが押しやる。

インド人達は、顔を見合わせニヤリっとする。

「ちょっと資金を調達しようぜ」とKが言う。

「え?資金?」

「両替だよ!りょうがえ!」

香港の両替はチョンキンマンション内の両替商を使うと率が良い事で有名だ。

10件以上の両替商が一階から軒を連ねてる。

ガラス越しに手招きする両替屋。

「アシタ タカイヨ キョウ イイヨ」

「本当かよ!けっ!」Kが一瞥する。

奥の階段まで進み二階に上がる。

「此処が良いんだよ」

「そうなんですか?」

「間違いねーよ」

レート計算表を見ると本当に率が良い。

Kは上着の薄いシャツをたくし上げ、腹に巻いてるウエストセキュリティー袋からタイバーツ紙幣を大量に
出した。

ガラス越しに利口そうなアラブ系の男が紙幣を素早く計算してる。

瞬は日本円1万円だけ両替した。

一階に降り、ビル内を少し散策した。

アフリカン、ヒンディー、華僑、とにかく人種の坩堝と、臭い体臭が漂っている。

安い土産物屋、各国の料理屋、航空券屋、インターネット屋、そして携帯電話屋。

二階から上は安宿街になる。

交渉は各自だが、それぞれグレードと値段が異なる。

自分達の泊まってるラッキーハウスは、HKD70ドル{1000円}だが、ドミトリーでHKD50ドルなんてのもある。

しかし安さに釣られると痛いしっぺ返しを食らいそうだ。

各フロアーに上がるエレベーターが、なかなか来ないのだ。

「どうだいチョンキンの居心地は?」

「はー・・・なんだかクラクラします」

「はははっ。そうだろ。それが良いんだよ」

瞬はKの言ってる意味が掴めなかった。

「もう出ましょうよ」

瞬が弱音を吐いた。

Kは黙っていた。

Kの視線の先に一人の老婆が映っている。

老婆は歩き行く人々に物乞いをしている。

「どうしたんですか?Kさん」

「・・・・・・・」

「けい・・さ・・」

と言いかける隙にKは老婆へ歩み寄る。

Kはポケットから小銭を数枚掴むと老婆の掌にジャラっと小銭を落とした。

老婆は手を合わせるとKに向かって祈る仕草をした。

周りのインド人達が「Oh!..」と歓声をあげた。

誰かが「バクシーシ..」と呟く。

Kは出口まで足早に歩きだした。

瞬はKの長い足と歩調が合わず見失いそうになる。


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