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遠い夏の日 第一話

「遠い夏の日」

第一章



君は憶えているだろうか・・・

僕等がまだ若く・・・激しく・・・苦しく・・・切ないほど愛し合った季節を・・・

僕は未だに君が震えながら、僕の胸でシャツが濡れるくらい、泣きじゃくった事を昨日のように憶えているよ・・・

生暖かい感触が胸を伝い、やがて寝息に変わり、僕の胸で寝てしまった君を忘れてはいない・・・

僕はいつまでもいつまでも、君を絶対に離さないよう、キツク抱きしめたあの日を憶えているよ・・・

君はまだ憶えているかい?

僕等が過ごした夏の季節を・・・

僕の事を・・・・



僕等は雲一つ無く晴れわたった秋の休日を、当たり前の親子のように楽しんでいた。

快晴というのは本当に清清しく、青空に何一つ浮かんでいない状態をいうんだなと、いつになく僕は考えていた。

夏の季節が終わり、海辺の街のにぎわいにも陰りを見せ始め、秋風の少し淋しい薄手のコートを纏いながら、僕は娘と海に来ている。

娘が砂山を作っては、波が押し寄せ全てを崩してしまう。

屈託無く笑いながら彼女は、彼女の手で自ら自分の城を再び作りはじめる。

しかし宇宙から波というエネルギーが、全てを飲み込み彼女の希望は崩れ去る。

「もう!キライ・・パパ!さーぴんするぅ?」

娘は僕の影響で、少しだけ波乗りをするようになった。

最初の頃は、海も嫌い、波も怖い、なんて言って拒絶していた娘が、いまや休日前になると僕に海に行こうとせがむほどになった。

この歳まで健康に育ってくれて本当に僕は神様に感謝している。



この世には信じられない出来事が数々あり、理解することさえ不可能なことがたくさんある。

もしも、僕等が生きている世界に神様が存在するならば、その神様を信じる人間も存在する。

人間の記憶とは、どれだけ人を幸福にし、どれだけ不幸にするのかわからない。

記憶という人間の重要な機能は脳が司る。

良い記憶も、悪い・・・いや、嫌な忌々しい記憶さえも、全ては脳が支配している。

もしも、嫌な記憶を消去する機能が脳にあるならば、全ての人間は幸福に過ごせるだろう。

だがそんな意図的に都合よく消去するなんて作業は出来ない。

だから僕は娘を持つ父として、彼女の幸福を願うし、彼女の脳になるべく嫌な記憶を植えつけないよう、努力して一緒に暮らしている。

「パパ?進まないよ?」

娘は波打ち際で波と格闘している。

そんな娘もいつかは成長し、人生の荒波に立ち向かっていくのだろうか・・



雲一つない秋の晴天に、いつしか黒い雲が覆い辺りを闇夜にしてしまうなんて、思いもしない記憶がたまに僕を責め続ける。

蘇り打ち消して蘇り打ち消しての堂々巡りの袋小路に入り込んでしまった僕の記憶は消えることはない。

僕は希望という絵の具で、過去というキャンバスに、上塗りして封印してしまいたい。

それは僕と夏生の季節をも、消してしまうのだと自分に言い聞かせて。



第二章


「シュン!おいシュン!先生が呼んでたぞ!」

「あぁカッタルイわ。帰ったって言っといてよ」

夏休みも間近の下校時間、高校二年にもなれば人生計画地図を描く作業が忙しく、極力無駄な時間を省きたい。

波間瞬17歳も又、人生計画地図を描く一人である。

夏という一瞬の季節に、どれだけの思い出を地図に刻む事が出来るだろうか。

{夏は、心の状態}誰の心にも潜む魔物に近い状態がある。



小高い丘の上に位置する校舎から、彼は自転車で駆け下りてきた。

真夏の生暖かい空気の中、肩まである長い髪は汗で首筋に張り付き額は全開状態だ。

「ナツキ。どうする? 行くの?」

「えー伊豆でしょ。どうしようかな」

信号待ちをしながら知美と夏生は夏休み旅行の計画を練っていた。

キーーッと勢いよく瞬の自転車が交差点で止まった。

「ねえねえ。あの子知ってる?波間だったっけ?」

「しらなーい。誰それ?」

「変わってるって噂だよ。いっつも学校で寝てばかりでさー。遅刻早退常習犯だけど成績まあまあ」

「ふーん」

「それでね。誰ともっていうか。友達いない雰囲気」

「へー。それじゃツマラナイジャンねー」

瞬は後ろでの話し声が聞こえたのかユックリと振り向いた。

夏生は「はっ」として口をキっと閉じたが、瞬と目があった。

どこか幼い雰囲気な表情だが、目だけは決して笑うことを知らないといった、淋しげな目を夏生に彼は向けた。

夏生は表情を硬くしたが、彼が少しだけ目を大きくする仕草を見逃さなかった。

夏生の口が少しだけ開き、彼に何かを言おうとしたが彼は首を元に戻し、再び自転車で疾走して行った。


「こわーい。見た?今の顔?」

知美が夏生に話しかけた。

{あの子、何か言おうとしてた。なんだったんだろう。目が何か言おうとしてた}

夏生は考えていた。

「ねえ。ナツキ聞いてる?」

「えっ、あ、うん」

瞬は自転車のペダルをこぎながら口に出して呟いた。

「ふっ、ざーけんなよ」

{見たことない子だな。けっこうカワイイかも。まっ俺には関係ないか}

喉の奥でピリっとする、マスタードのような辛さの感情がわいたが、辛味は鼻を抜けるよう自ら打ち消した。



瞬の自宅は自転車で10分の距離にあった。

カバンから鍵を取り出しドアを開け、バスルームユーティリティの横にある洗濯機に、着ている開襟シャツを脱ぎ放り込んだ。

そのまま二階へ駆け上がり、アンプのスイッチを入れた。

スピーカーから少しだけブーンと音がした。

ターンテーブルに乗せたままにあったレコードに針を乗せた。

コンガ、マラカス、スネア、シンバル、がアフリカンなリズムを刻みはじめた。

ミッキーが「yaoo..waoo..」と叫ぶ。

瞬のRolling Stonesで一番好きなナンバー{Sympathy for the devil}が部屋中に流れ始めた。。


Please allow me to introduce myself
I'm a man of wealth and taste
I've been around for long, long years
Stole many man's soul and faith

And I was 'round when Jesus Christ
Had his moment of doubt and pain
Made damn sure that Pilate
Washed his hands and sealed his fate

Pleased to meet you
Hope you guess my name
But what's puzzling you
Is the nature of my game..


ストーンズナンバーのR&Bリズムが真夏の暑さを更に高めた。

適当なTシャツを着て、膝上からカットされ着古したジーンズを穿いた。

そしてバスタオルとサーフトランクスをデイパックに入れ、サーフボードケースにワックスとリーシュコードも入れ忘れないようにした。

机の引き出しからスクーターのキーを持ち、階段を降り玄関を開け、ボードキャリアに板をセットしセルモーターを回した。

頭の中は、まだミッキーの声とリズムが聴こえてくる。

この街唯一のファーストフード店Mへ彼は寄り道した。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

笑顔が爽やかな同じ年代の女性アルバイトが対応した。

「○○バーガーとオレンジジュース単品で」

「店内でお召し上がりですか?」

「いや、お持ち帰りで」

とは言ったものの、店を出ると包装紙の袋を開け、ハンバーガーとオレンジジュースを一気に胃に流し込んだ。

舌の奥にオレンジジュースの柑橘類の酸っぱさが残った。


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遠い夏の日 第二話

彼は再びスクーターのエンジンを始動させ、スロットルを全開にした。

街中を抜けながら郊外のバイパスを避け、曲がりくねった細い道だけを走った。

トウモロコシ畑のグリーンのブラインドが風に揺れている。

まっすぐに伸びた少し登り勾配の道をひた走ると坂の上に出た。

彼はエンジンを切りバイクのスタンドを出し、フルフェースのヘルメットを脱いだ。

PM1:37

虫の鳴き声が、コロコロと聞こえてくる。

額から汗が流れ、首筋をつたった。

真夏の炎天下が逃げ水を作り出し、アスファルトの温度はゆうに50度を超えている。

ユラユラ揺れる景色を遠目に見ると、蒼い海が広がっていた。 

090607_0913~0001

彼は細くスロープに近い私道にバイクを横付けした。

周囲に誰も居ない事を確認すると、彼はTシャツとジーンズそしてボクサーパンツの下着も脱ぎ、素っ裸の状態になった。

暑さよりも開放感が先にたち、しばらくそのままの格好で空を仰いだ。

「ふーっ、あちーや」

デイパックから白いサーフトランクスを取り出し穿いた。

サーフトランクスの生地から伝わるヒンヤリとした冷たさが心地よく感じた。

彼はボードケースから板とワックスを取り出し塗りだした。

暑さの中ワックスアップすると、逆にワックスを剥がす格好になってしまう。

硬い固形とボードに張り付いた柔らかく薄いワックスは硬い固形が勝ってしまうのだ。

彼はトロピカルウォーター用のワックスを少しだけ塗り終えると尻のポケットに入れた。

県南に位置する椰子の木の群生地に、ココナッツフレーバーの香りが立ちのぼっている。

サーフボードを抱えビーチサイドへ彼は歩いて行った。

足に少しでも砂が触れるようなら火傷してしまうくらいだ。

砂浜は色々な貝殻が流れ着いていて、少し白みがかった砂だ。

西、南西、南、東、そして北東と、さまざまなウネリが此処のポイントへ集まる。

まったく波が無い日が無いくらいなのだ。

彼は少し海水で濡れた場所を探し、板を置き両腕を真っ直ぐに頭上へと伸ばし、体を後ろへ反る格好をした。

その次に彼は、両足を肩幅よりも広い位置へ開き、両手を膝に置いて体をねじった。

外腹斜筋、広背筋が伸縮し、背骨がグキっと鳴った。

最後に正座の格好から、腿の部分を伸ばし、立ち上がり板を抱え波うち際まで行った。

岸辺からどん深なので最初から丁寧にパドルを始めた。

水温はお湯に近いくらいで温い。

風は陸から吹くオフショア状態。

パドル姿勢から海底を見ると、底が見えるくらい綺麗だ。

セットの波が来る前に彼は、平水面でドルフィンスルーをした。

長い髪が後ろへ流れ、オールバックスタイルになった。

体が海水を浴びると、気持ち良く彼は息を軽く吐いた。

「ふーっ」

板にまたがり波待ちしていると、海水の雫なのか汗なのか、わからないくらいポタポタと頭から水が滴り落ちてきた。

セットの間隔が長く、厚く割れずらいのでインサイドまで戻り、割れそうなピークを狙った。

沖に目をこらして見ると、セットがラインナップしてくる筋が入ってきた。

厚い波からパドルせず、彼は胸まで板にへばりつき、重心を板の前側に置きニ回しかパドルせずに、割れる寸前の波でレイトテイクオフした。

軽く落ちるような感覚と、板のレール部分がフェースに食い込んで、シッカリとした安定感を覚えた。

膝が胸に近いくらいの格好から、少し上体を上げレールトゥレールで加速し始めた。

風が合っているのか地形が良いのか、長いショルダーが続いている。

アップスンからボトムへ軽く降りるとターンし、崩れてくるリップに板を当て込んだ。

低い姿勢からテールを蹴りこんで、前足も上体もボトムへ向かせ、スープと共にローラーコースターで最後のセクションは終わった。

彼は確かめるように同じ工程を繰り返した。

時折、波は同じ表情を見せないように彼を試した。

走っていく波のショルダーが目の前で崩れ、ショートライドを余儀なくされる形になったが、彼は難なくスープの前でバンピングとアップスンしながら加速した。

そして再び掘れたフェースが出来始めると、彼は一気にフェースへと戻り板のレールを食わせた。

しかしフェースへ戻るや否や、クルっと向きを変えプルアウトし、「ふっ」とせせら笑うように再びセットポジションまで戻り始めた。

波のセットは同じ間隔で入ってきている。

彼は何本かをやり過ごし、右手を自分の左肩に当てる格好で、しばらく体温を感じていた。

空を見上げ目を閉じながら、何を考えているのか海中へと倒れこんだ。

全身の力を抜き、少しうつ伏せ状態で海面に浮く格好から、上体部を潜らせ両手を使い水を大きくかき潜水した。

海中で平泳ぎをし、海底まで到達すると彼は目を見開いた。

白い砂の凹凸がハッキリ確認でき、距離感はハッキリしないが珊瑚や岩が点在していた。

よく見ると磯焼けが始まっていることがわかった。

此処の海は、珊瑚の北限と呼ばれていて、ダイビング客も多く訪れる。

環境破壊の影が刻一刻と傾き、周囲を黒く塗り始めているのだと彼は思った。


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遠い夏の日 題三話

だんだんと息が苦しくなっていき軽く海底を蹴った。

ダルイ浮遊感と共に水面へと戻り、リーシュコードを手繰り寄せ、再びセットポジションからラインナップする筋を睨みはじめた。

ひと際大きいサイズが入ってきた。

胸から肩の形の良い三角形波だ。

盛り上がるピーク下のフェースを見ると、風に押されえぐられたような感じが、まるで生き物のように見える。

テイクオフの間合いを合わせようと助走的なパドルをはじめたが、フェースの中に吸い込まれるような感覚でバックしていき、水力に負けないよう力強く手のひらが水を後ろに押し下げた。

その瞬間、ピークのリップが弧を描き崩れ、彼もヒョイと軽く低い姿勢で板に乗った。

まるでリップと共に落ちるような様が波と同化してるように。

そのままボトム深く降りていき、右腕が水面につくぐらいフィンを支点にカーブを描いた。

波のトップまで駆け上がるスピードが足りないのか、彼は波の中腹で彼は板のレールを切り返した。

ちょうど波が崩れる先に位置した掘れる部分でスタンスしている。

しばらくフェースに張り付くようにしていたが、一気に深くボトムに降りテールのレール沈め大きくターンした。

板と一体化した物体が、波のショルダー部分まで上がっていき、彼はテールの右足に力を入れ、左足は逆に力を抜く感じで身体に引き寄せた。

ショルダー部分で更にトップターンし、フェースをアップスンしながらスピードを稼いだが、波が厚くなりブレイクタイムは終わった。

PM4:12 

左腕の小さめのダイバーウオッチ見た。

「もう、いいや」

彼は波打ち際でリーシュコードを外した。

PM4:32 ファーストフードM店内

「ねえ、いこうよ」

「うん、そうね」

知美がしきりに夏生を夏休み旅行へ誘っている。

「夏休みか。なんかいい事ないかな」

夏生が呟きながら女性誌をパラパラとめくった。

JALの沖縄旅行「JAL STORY上々沖縄 1991 」という広告で目がとまった。


「沖縄か、ねえ沖縄は?」

「ちょちょ、ちょっとイキナリ沖縄な訳?」

「そう。沖縄」

「そういえばさー去年のJALキャンペーンは夏離宮だっけ?米米クラブだったよね。良い曲だったよね?」


逢いたいと思うことが何よりも大切だよ
苦しさの裏側にあることに眼を向けて
夢をみてよどんな時でも
全てはそこから始まるはずさ


「沖縄ってさ?いくらするの?」

「さ?いくらなんだろう」

「浪漫飛行よね?」

「そうロマン」

「ローマンホリデー」

「違うって!」

「あははっは」

彼女たちは覗き込んでいた雑誌のページを閉じた。

屈託なく笑う知美を見つめる夏生の瞳もまた笑っている。

彼女たちのよく日焼けした肌は、この年代特有の艶と弾ける眩しさだ。

鋭利なピンで突付けば、パンっと音がして弾けそうな。


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遠い夏の日 第四話

PM5:02

六月二十日の夏至から数えて、ちょうど一ヶ月が過ぎた頃になるが、これから本格的な夏へと向かっているのだと実感させるような太陽ギラツキだ。

瞬は海岸へ流れ着いた流木を横目にバイクへ歩いている。

頭から流れてくる滴は汗なのか海水なのかわからないくらいだ。

再び彼は素っ裸になり着替えを始めたとき後ろから声がした。

「♪ばばんばばんばんばん 少年ケーン!」

「・・・・・・」

「おい少年!相変わらず裸が好きだの?」

「なんだよタキさんか。ビックリするじゃん」

タキとは、瞬より一回り年上の、友人みたいな相談相手みたいな存在だがサーフィンはやらない。

タキは都会で大手広告代理店のCMカメラマンをしていたが、今はフリーランスとして少しだけ仕事をしながら自分のテーマを撮りためていて、いずれ写真集を出版するとうそぶいている。

「オマエさっき潜ってただろ? 宝物探しでもしてたん?」

「あ いや。別になんでもないよ」

「あっそ、ならいいんだけど。で、これからバイト?それともバンド?」

「今日はなんもないす。 暇なんですか? おごってくださいよコーヒーぐらい」

「仕方ねーな、じゃACTで待ってるよ 適当な時間で待ち合わせな」

タキはそう言い残すと、坂の下に停めている、真紅のランチャデルタへ歩いていってしまった。

ランチャデルタHFインテグラーレ4気筒 DOHC 2.0LターボエンジンFRPボディーから流れでる、急気温が不釣合いな演出としてその場に残った。

瞬も着替えを済ませ、セルスイッチをオンにし、非力な50CCスクーターと共に家路へ急いだ。

来た道とは逆にバイパスを使い、フルスロットルべた踏み状態で走った。

家に着き、急いでシャワーを浴び、石鹸で念入りに潮くさい海水を洗い流した。

最後に冷水で身体がキンキンに冷えるまで冷水を浴びた。

バスルームを出ると、厚手のタオルで身体の水分をふき取り、頭もただ水分を吸わせるだけだった。

キッチンルームへ向かうと、スリードアの冷蔵庫の扉を開け、扉内側のポケットから{シーブリーズ社 アンティセプティック薬用ローション}を手に取ると、頭から振りかけ、顔、肩、胸、腹、脚、最後に自分では見えない背中にかけた。

スーっとした爽快感と、ミント、ハッカの香りが部屋中へひろがった。

二階へ上がり、再び{Sympathy For The Devil }に針を落とした。

彼は部屋に無造作に転がっているLevi Strauss社517ブーツカットに脚を通した。

そしてチェストの引き出しを開け、300枚はあるのかと思われる沢山Tシャツから、昨春、記念すべき初来日を果たした、ローリングストーズ『スティール・ホイールズ』ツアーTシャツを着、花柄のウェスタンシャツをボタンをはめずに羽織った。

机から数枚の札紙幣と小銭をポケットにしまい、階下へ降り再びスクーターで街まで向かった。


大きい交差点手前の前にさしかかり、ファーストフードMから出てくる制服の女の子二人が見えた。

「あっ、サーファーだ」

「よくわかるわね夏生」

「だってサーフボード積んでるじゃん」

彼女たちから{スローダウンともアップとも}サインボードは無く、瞬は交差点の130Rへと突っ込みファストアウトしていった。

「じゃあ、また明日ね。バイビー」

夏生と知美は、それぞれ自宅へと向かった。

太陽は傾きかけているが、街全体が蒸し暑い湿度で覆われている。

夏生は途中、書店へ寄った。

店内は埃っぽい匂いなのか、インクの匂いなのかハッキリしないが、クーラーの効いてないむせ返す匂いに嫌悪感を感じた。

旅行コーナーでガイドブック数冊に目を通すと1冊だけ購入した。

家に向かう経路で{開かずの踏み切り}で、立ち止まった。

運悪く遮断機が下りている。

何故、開かずかというと、この街は新幹線や特急路線ではないが、通勤快速が走っているため時間帯によっては、両方向から絶え間なく行き来し開かずになってしまうのだ。

彼女はカバンからガイドブックを取り出しグラビアを眺めた。

電車がの通り過ぎる轟音と、遮断機のカンカンと鳴る音がこだましている。

そろそろかな。と、思っても遮断機の赤い→が点灯している。

十分近く待たされ、やっとの事で最後の電車が行き過ぎた。

踏み切りの向こう側で、派手なシャツを着た、グンヘルメットのスクーターが停まっていた。

遮断機が上がりスクーターが近づき夏生の前で停車した。

夏生はビックリして立ち構えた。

「なに?!」

スクーターは微動だにせずヘルメットのシールド越しに自分を見ている。

「あ!」

夏生は見覚えのある目だとわかったが、ドキドキして心臓の音が鳴っていた。

ほんのわずかな時間、三十秒だっただろうか。

スクーターは後続車のクラクションに耐えられず行ってしまった。

♪{RUSH RUSH}

You're the whisper of a Summer breeze
You're the kiss that puts my Soul at ease
What I'm saying is I'm In to you
Here's my story and the Story goes
You give love, you get love
And more than Heaven knows
You're gonna see
I'm gonna run, I'm gonna try
I'm gonna take this love Right to ya
All my heart, all the joy
Oh baby, baby please

Rush, rush
Hurry, hurry lover Come to me
Rush, rush
I wanna see, I wanna see ya Get free with me
Rush, rush
I can feel it, I can feel you All through me
Rush, rush
Ooh what you do to me


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遠い夏の日 第五話

夏生はポカーンとして、その場から動けずにいた。

ハッと気が付き、自分がまだ踏み切り内にいるのだとわかるが、元々スローな足取りが更にぎこちない歩き方になった。

{あの子、見てた。見てた。睨んでた。いや違う違う。ワタシを見てた}

頭の中で自問自答しながら商店街のアーケード内を歩き、アイスクリーム屋の前で立ち止まった。

「すいません・・・アイス・・・ください」

夏生は言葉に力無く注文した。

「はい。どちらにしますか?」

ストライプ柄の制服を着、サンバイザーも同じ柄の女性が笑顔でこたえた。

「なんでも。いいです」

ポカーンとした返事に、店員は戸惑った表情である。

「お客様。なんでもっていうのは、お受けいたしかねます。チョコミント、バニラ、ストロベリー、カフェモカ、バナナ、レモン」

「じゃ、レモン。で」

店員はアイスカップにジェラードアイスをつめ夏生に手渡した。

夏生は、その場で一口だけアイスを舐めた。

レモンの酸っぱさとホンノリ甘い味が舌の上にのっかった。

二口めは少しガブリと多めにアイスを噛み口に含んだ。

コメカミと眉間がキーンと痛くなる感覚になり、喉越しにツルっとして冷たい食感が食道を滑り落ちた。

甘くフワっとして、いつか消え入ってしまいそうな、キュンっとした切ない気持ちが彼女を襲った。

でもどこか嬉しく、知らずうちに微笑を浮かべてしまう。

アーケードは沢山の夕飯支度客が往来している。

夏生は客の流れに乗れずにいるが、街の人々はうまく彼女にぶつからない。

レコード店前のスピーカーから曲が流れてきた。


http://www.youtube.com/watch?v=0IPbMVLZX6g

http://


Mu..na..Mu..na..
You're the whisper of a Summer breeze
You're the kiss that puts my Soul at ease
What I'm saying is I'm In to you
Here's my story and the Story goes
You give love, you get love
And more than Heaven knows
You're gonna see
I'm gonna run, I'm gonna try
I'm gonna take this love Right to ya
All my heart, all the joy
Oh baby, baby please

Rush, rush
Hurry, hurry lover Come to me
Rush, rush
I wanna see, I wanna see ya Get free with me
Rush, rush
I can feel it, I can feel you All through me
Rush, rush
Ooh what you do to me
....

夏生は吸い込まれるようにレコード店へ入っていった。

「すいません! この曲ください」

「は? あーこの曲ですか? そこに積み上げてますよ」

ボーダー柄のシャツを着たロッカーっぽい若い店員が指差した。

夏生はPaula Abdul{Rush, Rush}のシングルCDを手に取った。



「これください」

瞬間的に何も疑問も持たず夏生はCDを買った。

アーケードを過ぎたあたりから西日が強く、ビルの壁に色濃く影が映りこんでいる。

商店街を抜け住宅街になると、少しだけ風が通り抜けて何処の軒先だろうか、風鈴の涼しい音色が聴こえてきた。

家の門扉を開けカバンから鍵を出しドアを開けた。

家のキッチンまで行き冷蔵庫から麦茶を取り出し、夏生はコップになみなみと注ぎ一気に飲んだ。

「あらっおかえり」

母が振り向きざまに夏生に声を掛けたが、彼女は返事もせずに二階へあがった。

「ちょっと。どうしたのよ。何も言わずに。夏生」

彼女は自室の床にへたりこみ、踏み切りでの事を思い出してみた。

{なんだったんだろう。あれは。あの眼。睨んでいるような。何か言いたげだけど。淋しげな。あーもう。わかんない]

しばらくの間そうしていたが我に返り、買ったCDをミニコンポのプレイヤーのスライドさせた。

何度聴いても甘く良い曲だと彼女は思った。

彼女は歌詞の一部を口ずさんでみた。

「Rush, rush.. Hurry, hurry lover Come to me..Rush, rush...ラッシュ・・・ね」

彼女は今、自分が曲の登場人物だったら、どれだけ幸せなんだろうなんて、思い出し笑いを隠せずにはいられなかった。

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